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オリジナル論文
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研究者として,オリジナル論文を書くのは当然である。ここでは,これらに関する雑談をする。 オリジナル論文に必要な条件 二重投稿 日本か海外か 概要の書き方 オリジナル論文に必要な条件 一般に論文集は採択率が70~80%程度あれば,ちゃんと査読をした論文集と認められているようである。ところが私が査読を依頼されたものでは,搭載可(修正も含む)と私が判断するのは30%以下である。私の査読が厳しいということがあるのかもしれないが,自分では厳しいつもりもないし,自分の論文もそれだけ注意している。論文の内容として私が注意するのは次の様な点である。
二重投稿になるか? 二重投稿というのは,同じ論文を複数の雑誌などに出すことである。これは,マナーとしてしてはいけない。 ただ,雑誌によって内容に特徴があることも多く,従って,テーマによって採用されやすい雑誌もあるので,投稿者としては通りそうな雑誌に,早く出したいというの気持ちも強いであろう。 たまに編集委員会から,採用となったのに取り下げ依頼がくるという不満を聞くことがある(もちろん,誰の論文かは教えてはくれないが)。これは,おそらく,同じ論文を複数の雑誌に同時に投稿し,良さそうなところに採用されたので,他の雑誌は取り下げたものと考えられる。研究者としては最低のレベルである。この場合にも,ある雑誌に投稿した場合,その雑誌から不採用の通知が来るか,自分で取り下げてからでないと他の雑誌に投稿しないのはエチケットであるし,雑誌によってはそのことを記載しているものもある。 もう一つの問題は,論文を投稿する際,毎回,全く新しい内容の発表ができるわけではなく,以前の研究を発展させてということもある。こういったことを丁寧に書いているのが,土と基礎に掲載された「Soils and Foundationsの国際戦略について」1)である。ここには,どんなに厳しい目で見ても,新しい部分が20%あれば問題ないと言うことが書いてあり,その例として,結論の引用条項数が5から6に増えるという程度であるということが示されている。なお,この記事には,他にも色々な記事が書いてあり,ぜひ読んでいただきたい。なお,20%が新しい部分と言うことは,80%が過去の成果ということである。発表時には,既発表部分をきちんと引用しておく必要がある。昔,Bulletin of the Seismological Society of America2)に過去の出版が引用されていないという,記事があった。対応する論文のオリジナリティには全く問題ないとしても,引用していないというだけでこれだけの問題になる。 また,文献3)には同じ内容がいくつもの所に発表されているという議論が提起された。特にタイムリーな話題だと,論文として出すときと,依頼記事として出すときがあるかもしれない。そのような場合でも,きちんと引用をして違いもはっきりさせておくことが必要であろう。 なお,発表には,論文としての発表と,口頭発表というのがある。口頭発表というのは,講演するだけなので,既発表論文にはならない。日本の学会の年次大会などでの発表はこれにあたる。地盤工学会,土木学会,日本建築学会ではそれぞれ「発表講演集」「年次学術講演会講演概要集」「学術講演概要集」という題目になっており,論文集とはなっていない。一方,よくわからないものもある。シンポジウムでは,論文集となっているものもある。国際会議では論文はオリジナルであることという投稿規定があるものもある。国際会議は情報交換の意味もあるので,オリジナルを要求するのはどうかと思う。この国際会議はオリジナル論文としての価値があということを言いたいのかもしれないが,発表論文を見ていると,単にお題目になっているだけの印象を受ける。既発表に引っかかるかどうかは,あくまで発表する論文集側の意見であるので,心配なら発表先に問い合わせることも必要である。(私自身は確認はしていないが)ASCEでは日本語の論文を英語に直したものは受け付けると聞いたことがある。文献1)には「ASCEの雑誌には日本語原稿の翻訳が搭載されている」という記述もある。 日本か海外か 研究者として,もう一つ大きいのは,日本の雑誌か,海外の雑誌かという問題である。筆者の経験からして,英語で発表すると,日本の研究者は余り見てくれないことが多い(人のことは言えない。私も普段は海外の雑誌をちゃんと読んでいるわけではないが)。一方,日本語で出すと,当然,海外の人は見てくれない。 最近,私は,日本地震工学会の日本地震工学会論文集に出すことが多くなった。この論文集では,日本語の論文と同じ内容であれば,英語の論文も出してくれる。すなわち,二重投稿の心配なく(逆に,改良などは認められない),日本語と英語の両方が出せるからである。 概要の書き方 論文に概要(Abstract,Synopsis)は必ず必要なものであるが,最近,きちんとかけていないものが非常に多い。かけていないもののほとんどは,Abstractははじめに(Introduction)の抄録版と思っているものである。研究の必要性をまとめているが,内容については全く書かれていない。はじめにではそれでよいが,Abstractがこれでは困る。 Webで論文の概要として調べてみると,実に多くのサイトにヒットする。いわゆる論文から,卒業論文~博士論文の書き方(こちらは,大学のサイトに多い)における書き方まで実に多様である。論文に対してと言うことであれば,例えば,(1),(2),,(3)などがある(たまたまWebで検索してきたら出てきたものであるが,きちんとかけている。他にも適当なものがあるかもしれない)。これらに共通しているのは,概要を読めば,論文の内容がわかるということである。最初に挙げたはじめにの抄録版の様な書き方では,具体的に何をしているのかわからないわけである。 多くのサイトにも書いてあり,私自身もそうであるが,論文を読む順序は,(1)題目,(2)概要,(3)結論,それから必要と思えば内容ということになる。最近は論文集も多いし,とてもすべてを読むことはできない。それで,読むための論文を選択するわけである。昔,博士課程の学生だった頃,同じフィールドの研究をしておられたある先生から「年次大会を含め,年に50編論文を読んでいれば立派だよ」と言われたことがある。私は論文を沢山読む方ではないが,仮にこれを目標とすると,相当読む論文を絞らないといけない。そのとき,概要に内容がない,結論が査読の所で書いたように結論が当たり前の事しか書いていないとほとんど読むことはない。発表者としてこれは損である。概要はそのつもりでしっかり書いていただきたい。 概要をどう書くかであるが,例えば,このサイトでは,(1) 何を目的として,(2)何を行い,(3) どういう結果を得たかを簡潔に述べるとし,その分量を(1):(2):(3)=3:3:4程度としている。また,(1) が半分以上占めると,内容がうすく感じられて良くないとしている。私は(1)はもっと少なくても良いと思っている。それは,論文集を調べると言うことはその分野に通じているであろうから,問題意識などをくどくど書くことはないと思っているからである。 次のサイトでは,もっと具体的に
私のお勧めの概要の書き方は,「##を明らかにするために##に関する実験(解析)を行った。具体的な手順など。その結果##がわかった(という結論が得られた)」というような書き方である。 査読をしていて,概要が書けていないのは,非常に扱いが難しい。採用のための条件にするわけにもいかないし,改善ための意見としてあげても,元々書き方を知らない人なので,改善は見込めない。今回,このサイトを書くためにいくつかのサイトを調べたので,今後は,これらを見ろという意見を出してもよいかもしれない。 参考文献 1) 東畑郁生(2006):Soils and Foundationsの国際戦略について,土と基礎,Vol. 54,No. 12,pp. 95-98 2) Bulletin of the Seismological Society of America, Vol. 105, No. 1, pp. 445–446, February 2015 3) 篠崎祐二(1988):「深部不整形地下構造を考慮した神戸市の地震動の増幅特性解析」に対する議論,日本建築学会構造系論文集,No. 503,pp. 171-174 4) 石黒圭:論文の書き方―査読者との対話としての投稿―,専門日本語教育研究 14(0), 3-10, 2012,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtje/14/0/14_3/_pdf/-char/ja |