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オリジナル論文

 研究者として,オリジナル論文を書くのは当然である。ここでは,これらに関する雑談をする。

オリジナル論文に必要な条件
二重投稿
日本か海外か
概要の書き方


オリジナル論文に必要な条件
 一般に論文集は採択率が70~80%程度あれば,ちゃんと査読をした論文集と認められているようである。ところが私が査読を依頼されたものでは,搭載可(修正も含む)と私が判断するのは30%以下である。私の査読が厳しいということがあるのかもしれないが,自分では厳しいつもりもないし,自分の論文もそれだけ注意している。論文の内容として私が注意するのは次の様な点である。
  1. 論文の「はじめに」には,論文の位置づけを書く必要がある。a)何が問題で,b)過去にこれに関連してどのような研究が行われてきて,何が不足していて,c)自分の論文は何を解決しようとするものであるか,ということである。ところが,c)が不足していて,代わりに,a)の問題に関して何かをした,としか書いていないものが多い。b)に関しては非常に難しい。それは,特に最近,論文集が増えてきて,とても全部を読むことはできないので,余りチェックすることはしないが,それでも代表的なものはあると思う。ところが自分たちの研究グループのものしか挙げられていないものもある。
  2. 結論にはじめにで挙げた問題意識に対しての答えが示されているか。問題の全部を解決するのは無理かもしれないが,どの部分を埋めたのか,という見解が示されている必要がある。例えば,はじめにで「・・・・という問題がある」なら,「・・・・という問題に関して実験を行い次の結論を得た」で後は項目が挙げられているだけで,問題のどの部分が明らかになっていない様なものである。項目を挙げた後に,それらを総括してどこを埋めたのかを書いて欲しい。
  3. 結論が常識である。これも良くある事例であるが,丁寧に実験をしてあるが,結論を見ると,例えば「N値が大きいとせん断波速度が大きい頃がわかった」の様に当たり前の事しか書いていない論文が結構多い。上の話とも関係しているが,問題意識に対して研究をまとめる能力がない(意識がないのかも)ので,結論が定性的な事しか書け無いものと考えられる。実験を行ったら,どの範囲で何が言えるのかを定量的に示して欲しい。
  4. 計算や実験は数をたくさんしてあるが,オリジナリティが何なのかを書いていない論文も多い。それなら単なる計算,実験のレポートである。
  5. 研究の条件が書かれていない。実験なら実験条件,解析ならその前提条件や仮定などがきちんとかけていないものは,採用条件で対応することも多いが,ひどいものはもちろん不採用である。
  6. 日本語が怪しい。愚痴になるが,私たちの年代は,論文の著者としては一番損な年代である。若い頃は,著者は,教授,助教授,助手,自分という順番が当たり前であった。今は,一番貢献した人が最初で,基本的に貢献順に並べるのが一般的である。従って,第一著者の論文が少なくなっている。なぜ,こんな愚痴を書いたのかというと,著者のリストの最後にある一番偉い先生が本当に読んでいるのか怪しい日本語の論文が結構あるからである。あるとき,地盤工学ジャーナルの(当時の)委員長から,日本語の変な論文は査読に入る前に返却してよいか,という相談を受けたことがあった(私は,地盤工学ジャーナルの設置の推進者の一人で,二代目の委員長)。もちろん,賛成と答えておいたが,こんな相談があるほど,日本語のひどい論文が増えているのだと思われる。
 なお,論文の書き方については,文献4)が参考になると思います。


二重投稿になるか?
 二重投稿というのは,同じ論文を複数の雑誌などに出すことである。これは,マナーとしてしてはいけない。 ただ,雑誌によって内容に特徴があることも多く,従って,テーマによって採用されやすい雑誌もあるので,投稿者としては通りそうな雑誌に,早く出したいというの気持ちも強いであろう。
 たまに編集委員会から,採用となったのに取り下げ依頼がくるという不満を聞くことがある(もちろん,誰の論文かは教えてはくれないが)。これは,おそらく,同じ論文を複数の雑誌に同時に投稿し,良さそうなところに採用されたので,他の雑誌は取り下げたものと考えられる。研究者としては最低のレベルである。この場合にも,ある雑誌に投稿した場合,その雑誌から不採用の通知が来るか,自分で取り下げてからでないと他の雑誌に投稿しないのはエチケットであるし,雑誌によってはそのことを記載しているものもある。
 もう一つの問題は,論文を投稿する際,毎回,全く新しい内容の発表ができるわけではなく,以前の研究を発展させてということもある。こういったことを丁寧に書いているのが,土と基礎に掲載された「Soils and Foundationsの国際戦略について」1)である。ここには,どんなに厳しい目で見ても,新しい部分が20%あれば問題ないと言うことが書いてあり,その例として,結論の引用条項数が5から6に増えるという程度であるということが示されている。なお,この記事には,他にも色々な記事が書いてあり,ぜひ読んでいただきたい。なお,20%が新しい部分と言うことは,80%が過去の成果ということである。発表時には,既発表部分をきちんと引用しておく必要がある。昔,Bulletin of the Seismological Society of America2)に過去の出版が引用されていないという,記事があった。対応する論文のオリジナリティには全く問題ないとしても,引用していないというだけでこれだけの問題になる。
 また,文献3)には同じ内容がいくつもの所に発表されているという議論が提起された。特にタイムリーな話題だと,論文として出すときと,依頼記事として出すときがあるかもしれない。そのような場合でも,きちんと引用をして違いもはっきりさせておくことが必要であろう。
 なお,発表には,論文としての発表と,口頭発表というのがある。口頭発表というのは,講演するだけなので,既発表論文にはならない。日本の学会の年次大会などでの発表はこれにあたる。地盤工学会,土木学会,日本建築学会ではそれぞれ「発表講演集」「年次学術講演会講演概要集」「学術講演概要集」という題目になっており,論文集とはなっていない。一方,よくわからないものもある。シンポジウムでは,論文集となっているものもある。国際会議では論文はオリジナルであることという投稿規定があるものもある。国際会議は情報交換の意味もあるので,オリジナルを要求するのはどうかと思う。この国際会議はオリジナル論文としての価値があということを言いたいのかもしれないが,発表論文を見ていると,単にお題目になっているだけの印象を受ける。既発表に引っかかるかどうかは,あくまで発表する論文集側の意見であるので,心配なら発表先に問い合わせることも必要である。(私自身は確認はしていないが)ASCEでは日本語の論文を英語に直したものは受け付けると聞いたことがある。文献1)には「ASCEの雑誌には日本語原稿の翻訳が搭載されている」という記述もある。


日本か海外か
 研究者として,もう一つ大きいのは,日本の雑誌か,海外の雑誌かという問題である。筆者の経験からして,英語で発表すると,日本の研究者は余り見てくれないことが多い(人のことは言えない。私も普段は海外の雑誌をちゃんと読んでいるわけではないが)。一方,日本語で出すと,当然,海外の人は見てくれない。
 最近,私は,日本地震工学会の日本地震工学会論文集に出すことが多くなった。この論文集では,日本語の論文と同じ内容であれば,英語の論文も出してくれる。すなわち,二重投稿の心配なく(逆に,改良などは認められない),日本語と英語の両方が出せるからである。


概要の書き方
 論文に概要(Abstract,Synopsis)は必ず必要なものであるが,最近,きちんとかけていないものが非常に多い。かけていないもののほとんどは,Abstractははじめに(Introduction)の抄録版と思っているものである。研究の必要性をまとめているが,内容については全く書かれていない。はじめにではそれでよいが,Abstractがこれでは困る。  Webで論文の概要として調べてみると,実に多くのサイトにヒットする。いわゆる論文から,卒業論文~博士論文の書き方(こちらは,大学のサイトに多い)における書き方まで実に多様である。論文に対してと言うことであれば,例えば,(1)(2),,(3)などがある(たまたまWebで検索してきたら出てきたものであるが,きちんとかけている。他にも適当なものがあるかもしれない)。これらに共通しているのは,概要を読めば,論文の内容がわかるということである。最初に挙げたはじめにの抄録版の様な書き方では,具体的に何をしているのかわからないわけである。
 多くのサイトにも書いてあり,私自身もそうであるが,論文を読む順序は,(1)題目,(2)概要,(3)結論,それから必要と思えば内容ということになる。最近は論文集も多いし,とてもすべてを読むことはできない。それで,読むための論文を選択するわけである。昔,博士課程の学生だった頃,同じフィールドの研究をしておられたある先生から「年次大会を含め,年に50編論文を読んでいれば立派だよ」と言われたことがある。私は論文を沢山読む方ではないが,仮にこれを目標とすると,相当読む論文を絞らないといけない。そのとき,概要に内容がない,結論が査読の所で書いたように結論が当たり前の事しか書いていないとほとんど読むことはない。発表者としてこれは損である。概要はそのつもりでしっかり書いていただきたい。
 概要をどう書くかであるが,例えば,このサイトでは,(1) 何を目的として,(2)何を行い,(3) どういう結果を得たかを簡潔に述べるとし,その分量を(1):(2):(3)=3:3:4程度としている。また,(1) が半分以上占めると,内容がうすく感じられて良くないとしている。私は(1)はもっと少なくても良いと思っている。それは,論文集を調べると言うことはその分野に通じているであろうから,問題意識などをくどくど書くことはないと思っているからである。
 次のサイトでは,もっと具体的に
  • 要約とは、序論から結論までを凝縮した論文全体の概要である。
  • 要約を読むだけで論文全体の内容が分かるようになっている。
  • 読者が論文を読むかどうか判断できる十分な情報を含める。
  • 目的なり方法なりに、論文の新規性・独自性があることが分かる
  • 指定字数が少なく短い場合は「キーワードを繋げる」と良い。
また,「理工系よい文章の書き方」1)では,初心者にありがちなのは,背景の説明に字数を割きすぎてしまったり,指定字数におさめようと苦戦した結果、全体のバランスが悪くなることなどを挙げている。また,「ABSTRACTについては記述内容がABSTRACTとしての必要要件を満たしていない,ABSTRACTだけを読んだのでは何を著者が主張したいのか分からないという基本的な問題点を指摘する声が査読委員から寄せられている.」という記述もあり,私と同じ思いを持っている人が多いことがわかる。
 私のお勧めの概要の書き方は,「##を明らかにするために##に関する実験(解析)を行った。具体的な手順など。その結果##がわかった(という結論が得られた)」というような書き方である。  査読をしていて,概要が書けていないのは,非常に扱いが難しい。採用のための条件にするわけにもいかないし,改善ための意見としてあげても,元々書き方を知らない人なので,改善は見込めない。今回,このサイトを書くためにいくつかのサイトを調べたので,今後は,これらを見ろという意見を出してもよいかもしれない。



参考文献
1) 東畑郁生(2006):Soils and Foundationsの国際戦略について,土と基礎,Vol. 54,No. 12,pp. 95-98
2) Bulletin of the Seismological Society of America, Vol. 105, No. 1, pp. 445–446, February 2015
3) 篠崎祐二(1988):「深部不整形地下構造を考慮した神戸市の地震動の増幅特性解析」に対する議論,日本建築学会構造系論文集,No. 503,pp. 171-174
4) 石黒圭:論文の書き方―査読者との対話としての投稿―,専門日本語教育研究 14(0), 3-10, 2012,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtje/14/0/14_3/_pdf/-char/ja  

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Updated: 31 May, 2020