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不撹乱試料
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Meyerhofの式1) \(\hspace{20mm}\)\(N=1.7D_r^2(\sigma '_v+10) \)\(\hspace{10mm}\) (\(\sigma '_v\): lb/in2 )(1) は日本の液状化判定に用いられる一番元になる式の一つです。ここで,その問題点を示したいと思います。改良された式が現れるのを期待しています。 1. Meyerhofの式の使われ方 Meyerhofの式が液状化判定の元になっていると書きましたが,まず,それについて紹介します。 \(\hspace{20mm}\)\(R=0.0042D_r \) \(\hspace{10mm}\)(\(D_r: \% \))(2) です。なお,原論文では,この式は\(D_r=50%\)に対してだけに整理されていますが,他の研究のデータを\(D_r=50%\)に整理するときには,液状化強度と\(D_r\)が比例すると考えています。ざっと見て,繰返し数20の所では液状化強度比0.15~0.25の間にデータがばらついているのを中央値で0.21としています。砂の種類を見ると,きれいな砂が多そうです。現在指針などで用いられている細粒分含有率でこれを補正するのは難しそうですね。図1 \(D_r=50%\)における液状化強度 もう一つは,Mayerhofの,相対密度とN値の関係式で,式(1)で示されています。設計指針で液状化に用いる時にはN値の上載圧補正が必要なのもこれでわかります。式(1)を用いてN値から相対密度を求めるときに上載圧が必要なのです。 ところで,式(1)は単位がポンド(lb)とインチ(in)であす。これを,上載圧がkPaの単位にするために変換します。1lb/in2=6.895kPa(1kPa=0.1450 lb/in2)ですから,これを用いて式(1)を変換すると,次の様になります \(\hspace{20mm}\)\(D_r=\sqrt{\cfrac{N}{1.065\sigma '_v/98+0.749}}\)\(\hspace{10mm}\)(\(D_r: \% \))(3) なお,式(1)では相対密度は実数ですが,式(3)では%になる様に補正してあります。一方,道路橋示方書のこれに対応する式は,\(\hspace{20mm}\)\(D_r=\sqrt{\cfrac{N}{\sigma '_v/98+0.7}}\)\(\hspace{10mm}\)(\(D_r: \% \))(4) です。ずいぶん思い切った割り切りですね。道路橋示方書ではさらに,この98を100に置き換え\(\hspace{20mm}\)\(D_r=\sqrt{\cfrac{100N}{\sigma '_v+70}}\)\(\hspace{10mm}\)(\(D_r: \% \))(5) として使っています。2. Meyerhofの式の思い込み? 表1はMeyerhof3)が示したN値と相対密度の関係です。論文を見ると,彼は,この表をTerzaghi・Peckの有名なテキスト4)を引用したとしています。しかし,私が調べての表の右の1列はTerzaghi・Peckのテキストには発見でませんでした。おそらく,彼は,\(N=0\)で\(D_r=0\)と思い込んでおり,そのため,相対密度を均等に配分したものと考えられます。表1 N値と相対密度の関係
Meyerhofの思い込みは,式(1)を作るときにも現れています。式(1)を紹介した文献1)で彼が引用しているのは,Gibbs・Holtzの実験6)です。図2にGibbs・Holtzの論文に示された実験値と式をMeyerhofの式と比較して示します。図のピンクの線がGibbsらの示した式,これに対して赤で示したのがMeyerhofの式です。Meyerhofの式は相対密度の小さいところで,N値をずいぶん大きく評価していることがわかります。これは,Meyerhofが\(N=0\)で\(D_r=0\)になると考えていたからでしょう。 図2 Gibbs・Holtzの実験とMeyerhofの式 私の本「液状化現象」5)で示したように,実地盤の相対密度の最小値は,30%以上,基本的には40%以上です。従って,表1の右列は\(D_r=0\)ではなく,40%(または30%)程度から始めるべきでした。図2をみても,\(N=0\)で\(D_r\)は30%程度です。従って,式(2)が正しいとすれば,\(N=0\)でも液状化強度は0となりません。 ところで,道路橋示方書はで,これまで\(N_a=0\)で\(R=0\)となる式を用いてきましたが,2017年版で\(N_a=0\)で\(R=0.098\)になる様に変更されました。複雑な変換をしていますが,私は,Meyerhofの思い込みから生まれた式(1)を補正する方が良かったと思います。 3. 拘束圧補正 式(1)では,上載圧が用いられています。しかし,力学的なセンスからいえば,有効拘束圧が用いられるべきでしょう。私,ずっと拘束圧の式で,拘束圧が計測しにくいので指針では上載圧に置き換えていると思っていました(本にもそのように書いてしまいました。修正が必要です。)。Meyerhofが参考にしたGibbs・Holtzの論文6)ではドラム缶の様な装置を使っています(著作権者の許可を得ていないので,写真を示すことはできません。https://www.issmge.org/uploads/publications/1/41/1957_01_0009.pdfに論文がありますので,興味のある方はご覧下さい)。このような装置に砂を詰めると,静止土圧係数\(K_0\)は一意的に決まりますから,上載圧で整理しても拘束圧で整理してもそれなりにきれいな関係になったものと思います。土の実験では同じ材料で試験をすると,何で整理してもそれなりにきれいな関係になります。整理して実験式を作るには何を独立変数に取るか,センスが必要だと思います。 これが問題になるのは,例えばサンドコンパクションの様な密実系の地盤改良をしたときです。密実化されることによってN値は増加し,液状化強度が大きくなります。しかし,これだけでは実際の液状化強度の増加を表現できないとして,\(K_0\)の効果も取り入れるべきという提案があります7)。 仮に式(1)が上載圧ではなく,有効拘束圧だとします。また,道路橋示方書が文献7)で仮定しているように,\(K_0=0.5\)の条件だとして\(K_0=1.0\)になったとすれば,\(\sigma'_v=100\) kPaとして,相対密度は次の様になります。 \(\hspace{20mm}\)\(D_{r,K_0=1.0}/D_{r,K_0=0.5}=\sqrt{\cfrac{100N}{100+70}} / \sqrt{\cfrac{100N}{50+70}}=1.19\)(6) つまり,液状化強度が約2割大きくなります。4. Meyerhofの式適用性 最初に示した式(1)は同じ材料を用いた実験ですので,比較的きれいなN値との間で比較的きれいな関係が得られました。しかし,実地盤ではいろんな材料が用いられます。実地盤材料の相対密度に関しまとめた論文を私はほとんど知りません。唯一,知っているのが,岩崎・龍岡らによる論文です8)。図3にその結果を示します。ここで,横軸は式(5)から計算した相対密度です。これらより,彼らは,N値から相対密度を求めることは,\(D_{50}\)の影響を考慮してもできないと結論づけています。また,私の経験でも,相対密度は一つの試料の中でも大きく変化することが普通です(例えば,文献5))。岩崎・龍岡らによる論文でも平均値を用いています。 ひょっとしたら,Mayerhofの式の係数は材料によって大きく変わるものなのでしょうか。細粒分など,色々な要因の影響を受ける物なのでしょうか。もう少し,式を見直す必要があるように思います。 図3 相対密度とN値から求めた相対密度の比較 参考文献
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