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合理的な複素剛性(YASモデル)
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この内容は,私たちの論文1)を分かり易く説明したものです。 これまで,SHAKEの減衰では,SHAKEで使われている複素剛性法,Lysmerの提案とその問題点と2回にわけて複素剛性の説明をしました。その結果,次の様なことがわかりました。
1. YASモデルの提案 実験と解析の履歴曲線を比較すると図1の様になります。先に示したように,オリジナルのSHAKEのモデル(Sorokinモデル)では楕円の面積は実験の履歴曲線と同じですが,最大応力が実験とは異なります。そこで,図の赤のモデルのように,最大せん断応力は実験値と同じになるようにして,さらに楕円の面積も実験と合わそうというものです。 まず,減衰定数を実験値と合わせるモデルを考えます。SHAKEの減衰の式(14)で示したように,履歴吸収エネルギー\(\Delta W\)は複素剛性の虚数部のみに依存します。そこで,複素剛性の実部を\(G_r\)とすると,複素剛性は次の様になります。 \(\hspace{20mm}\)\(\overline{G}_Y^*=G_r+2ihG \)(1) 図1に見られるように,線形部の剛性はGより小さいので,これを\(G_r\)と表しているわけです。 これまでと同様ひずみを次の様に与えます。 \(\hspace{20mm}\)\(\overline{\gamma}=\gamma e^{i\omega t} \)(2) すると,応力-ひずみ関係は次の様になります。 \(\hspace{20mm}\)\(\overline{\tau}=G_Y^*\overline{\gamma}=(G_r+2iGh)\gamma_0e^{i\omega t}\)(3) この実部から応力-ひずみ関係は次のように求められます。 \(\hspace{20mm}\)\(\tau=\mathrm{Re}{(\overline{\tau})}=\gamma_0(G_r\cos{\omega t}-2Gh\sin{\omega t})=\gamma_0\sqrt{G_r^2+4G^2h^2}\cos{(\omega t+\phi)} \) \(\hspace{20mm}\)\(\tan{\phi}=2Gh/G_r \)(4) この式では応力\(\tau\)の最大値は\(\gamma_0\sqrt{G_r^2+2G^2h^2}\)です。これが実験値の\(G\gamma_0\)と同じになる条件として,YASモデルの実部は次の様に求まります。\(\hspace{20mm}\)\(G_r=\sqrt{1-4h^2} \)(5) すなわち,YASモデルの複素剛性は最終的に次の式になります。 \(\hspace{20mm}\)\(\overline{G}_Y^*=G(\sqrt{1-4h^2}+2ih)\)(6) これより,応力-ひずみ関係を求めると,次の様になります。 \(\hspace{20mm}\)\(\tau=G\gamma_0(\sqrt{1-4h^2}\cos{\omega t}+2h\sin{\omega t})=G\gamma_0\cos{(\omega t+\phi)}\) 2. 他のモデルとの比較 これまで,三つの複素剛性を紹介してきました。 \(\hspace{20mm}\)Sorokinモデル:\(G^*=G(1+2ih)\) (オリジナルのSHAKEのモデル) \(\hspace{20mm}\)Lysmerモデル:\(G^*=G(1-2\beta^2+2i\beta\sqrt{1-\beta^2})\) (Lysmerさんの修正モデル) \(\hspace{20mm}\)YASモデル:\(\overline{G}_Y^*=G(\sqrt{1-4h^2}+2ih)\) (今回提案したモデル) ここで,Lysmerモデルでは\(\beta\)を用い,他のモデルでは\(h\)を使っていることに注意してください。Lysmerモデル以外では\(h=\beta\)ですのでどちらで書いてもよいのですが,実験が減衰定数\(h\)で与えられているので,そちらを用いています。しかし,Lysmerモデルでは\(\beta\)と\(h\)は異なりますので,その違いを明確にするために,\(\beta\)を用いています。 Lysmerモデルでは\(\beta\)と\(h\)が異なり,その関係が \(\hspace{20mm}\)\(h=\beta\sqrt{1-\beta^2} \)(8) で表されることは前に示しました。これより\(\beta\)を求め,Lysmerモデルの\(\beta\)に代入すると,YASモデルと同じ式が得られます。つまり,Lysmerさんは\(\beta=h\)と思い込んでおられたのが間違いで,\(\beta\)より\(h\)を求めていれば,我々と同じ式が得られていたのです。 減衰パラメータ\(\beta\)を0.1,0.2,0.3としたときの履歴曲線を比較して図3に示します。Lysmerモデルでは\(\beta\)に対応する\(h\)の値も示されていますが,両者の差は\(\beta=0.3\)で5%弱です。 図4には複素剛性の実部と虚部を減衰定数(減衰パラメータ)との関係で示します。Sorokinモデルでは実部は直線(一定値),虚部も直線です。一方,YASモデルは減衰はSorokinモデルと同じ(従って,履歴吸収エネルギーはSorokinモデルと同じ)ですが,実部は\(\beta\)と共に小さくなります。これは,線形部の傾きが小さくなっていることを示しています。複素剛性を用いた履歴曲線は楕円形ですが,その最上部が最大せん断応力でこれを実験値と合わせているので,図1にも見られたように線形部の剛性は小さくならざるを得ません。この点は,Lysmerモデルも同じです。しかし,虚部も曲線でSorokinモデル(YASモデル)より小さくなっていますので,履歴吸収エネルギーが小さく評価されるわけです。ただし,誤差は実材料のほぼ最大値である,\(h=30%\)で約5%ですから実務的には悪くないかもしれません。しかし,それなら,理論的に明快な,YASモデルを使う方が良いと思います。 図3 3つのモデルによる応力-ひずみ関係 図4 複素剛性の実部と虚部の減衰定数,減衰パラメータ依存性参考文献
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