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合理的な複素剛性(YASモデル)

 この内容は,私たちの論文1)を分かり易く説明したものです。

 これまで,SHAKEの減衰では,SHAKEで使われている複素剛性法,Lysmerの提案とその問題点と2回にわけて複素剛性の説明をしました。その結果,次の様なことがわかりました。

  • 1)SHAKE2)ではSorokinモデルという複素剛性が用いられてます。このモデルでは,データとして入力した減衰定数は正しく計算されていますが,最大せん断応力は\(\sqrt{1+4h^2}\)大きく評価している。
  • 2)Lysmerの提案3)
  • した複素剛性は1自由度系の振動理論に基づいているが,1自由度系の変位を同じとして設定したもので,そもそも比較の対象がおかしいし,余り合理的なものではない
  • 3) Lysmerの複素剛性を地盤に適用すると,最大せん断応力は実験値と同じだが,減衰定数は小さく評価されている
 合理的の定義は考えら得ると思いますが,ここでは,上の結果を考え,最大せん断応力と減衰定数が実験値と同じになるということにします。複素剛性は楕円型の応力-ひずみ関係であるというのは変えようがありませんので,例えば,履歴曲線の形状などを議論しても意味の無いことです。

図1 履歴曲線の比較(左)実験,(右)と複素剛性

1. YASモデルの提案

 実験と解析の履歴曲線を比較すると図1の様になります。先に示したように,オリジナルのSHAKEのモデル(Sorokinモデル)では楕円の面積は実験の履歴曲線と同じですが,最大応力が実験とは異なります。そこで,図の赤のモデルのように,最大せん断応力は実験値と同じになるようにして,さらに楕円の面積も実験と合わそうというものです。

まず,減衰定数を実験値と合わせるモデルを考えます。SHAKEの減衰の式(14)で示したように,履歴吸収エネルギー\(\Delta W\)は複素剛性の虚数部のみに依存します。そこで,複素剛性の実部を\(G_r\)とすると,複素剛性は次の様になります。

\(\hspace{20mm}\)\(\overline{G}_Y^*=G_r+2ihG \)(1)

図1に見られるように,線形部の剛性はGより小さいので,これを\(G_r\)と表しているわけです。

これまでと同様ひずみを次の様に与えます。

\(\hspace{20mm}\)\(\overline{\gamma}=\gamma e^{i\omega t} \)(2)

すると,応力-ひずみ関係は次の様になります。

\(\hspace{20mm}\)\(\overline{\tau}=G_Y^*\overline{\gamma}=(G_r+2iGh)\gamma_0e^{i\omega t}\)(3)

この実部から応力-ひずみ関係は次のように求められます。

\(\hspace{20mm}\)\(\tau=\mathrm{Re}{(\overline{\tau})}=\gamma_0(G_r\cos{\omega t}-2Gh\sin{\omega t})=\gamma_0\sqrt{G_r^2+4G^2h^2}\cos{(\omega t+\phi)} \)

\(\hspace{20mm}\)\(\tan{\phi}=2Gh/G_r \)(4)

この式では応力\(\tau\)の最大値は\(\gamma_0\sqrt{G_r^2+2G^2h^2}\)です。これが実験値の\(G\gamma_0\)と同じになる条件として,YASモデルの実部は次の様に求まります。

\(\hspace{20mm}\)\(G_r=\sqrt{1-4h^2} \)(5)

すなわち,YASモデルの複素剛性は最終的に次の式になります。

\(\hspace{20mm}\)\(\overline{G}_Y^*=G(\sqrt{1-4h^2}+2ih)\)(6)

これより,応力-ひずみ関係を求めると,次の様になります。

\(\hspace{20mm}\)\(\tau=G\gamma_0(\sqrt{1-4h^2}\cos{\omega t}+2h\sin{\omega t})=G\gamma_0\cos{(\omega t+\phi)}\)
\(\hspace{20mm}\)\(\tan{\phi}=\cfrac{2h}{\sqrt{1-4h^2}}\)(7)

\(h\)をパラメータとして履歴曲線を描くと図2のようになります。式(6)からわかるように,\(h=0.5\)で複素剛性の実部が0になります。このとき,図2からわかるように履歴曲線は完全な円になります。つまり,最大応力と減衰定数の両方をあわすモデルは\(h=0.5\) までしかできない訳です。ただ,土の減衰定数がこんなに大きな値になることは考えられませんので,実用的には十分と言えます。

図2 YASモデルによる履歴曲線

2. 他のモデルとの比較

これまで,三つの複素剛性を紹介してきました。

\(\hspace{20mm}\)Sorokinモデル:\(G^*=G(1+2ih)\) (オリジナルのSHAKEのモデル)

\(\hspace{20mm}\)Lysmerモデル:\(G^*=G(1-2\beta^2+2i\beta\sqrt{1-\beta^2})\) (Lysmerさんの修正モデル)

\(\hspace{20mm}\)YASモデル:\(\overline{G}_Y^*=G(\sqrt{1-4h^2}+2ih)\) (今回提案したモデル)

ここで,Lysmerモデルでは\(\beta\)を用い,他のモデルでは\(h\)を使っていることに注意してください。Lysmerモデル以外では\(h=\beta\)ですのでどちらで書いてもよいのですが,実験が減衰定数\(h\)で与えられているので,そちらを用いています。しかし,Lysmerモデルでは\(\beta\)と\(h\)は異なりますので,その違いを明確にするために,\(\beta\)を用いています。

Lysmerモデルでは\(\beta\)と\(h\)が異なり,その関係が

\(\hspace{20mm}\)\(h=\beta\sqrt{1-\beta^2} \)(8)

で表されることは前に示しました。これより\(\beta\)を求め,Lysmerモデルの\(\beta\)に代入すると,YASモデルと同じ式が得られます。つまり,Lysmerさんは\(\beta=h\)と思い込んでおられたのが間違いで,\(\beta\)より\(h\)を求めていれば,我々と同じ式が得られていたのです。

減衰パラメータ\(\beta\)を0.1,0.2,0.3としたときの履歴曲線を比較して図3に示します。Lysmerモデルでは\(\beta\)に対応する\(h\)の値も示されていますが,両者の差は\(\beta=0.3\)で5%弱です。

図4には複素剛性の実部と虚部を減衰定数(減衰パラメータ)との関係で示します。Sorokinモデルでは実部は直線(一定値),虚部も直線です。一方,YASモデルは減衰はSorokinモデルと同じ(従って,履歴吸収エネルギーはSorokinモデルと同じ)ですが,実部は\(\beta\)と共に小さくなります。これは,線形部の傾きが小さくなっていることを示しています。複素剛性を用いた履歴曲線は楕円形ですが,その最上部が最大せん断応力でこれを実験値と合わせているので,図1にも見られたように線形部の剛性は小さくならざるを得ません。この点は,Lysmerモデルも同じです。しかし,虚部も曲線でSorokinモデル(YASモデル)より小さくなっていますので,履歴吸収エネルギーが小さく評価されるわけです。ただし,誤差は実材料のほぼ最大値である,\(h=30%\)で約5%ですから実務的には悪くないかもしれません。しかし,それなら,理論的に明快な,YASモデルを使う方が良いと思います。

図3 3つのモデルによる応力-ひずみ関係

図4 複素剛性の実部と虚部の減衰定数,減衰パラメータ依存性


参考文献
  • 1)吉田望,安達健司:地盤の地震応答解析のための複素剛性法,日本地震学会論文集(印刷待ち)
  • 2)Schnabel, P. B., Lysmer, J. and Seed, H. B. (1972): SHAKE A Computer program for earthquake response analysis of horizontally layered sites, Report No. EERC72-12, University of California, Berkeley
  • 3) Lysmer, J.: Modal damping and complex stiffness, University of California Lecture note, University of California, Berkeley, 1973.

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Updated: 05 January, 2021