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著作権
 著作権という用語はご存じの方が多いと思います。私は著作権について専門家ではありません。私の理解は,自分が作ったものの権利(利益)を守る(その代わり,他の人が作った権利も尊重する)ということです。
 例えば,テレビ局が昔放送したドラマを再放送することは自由にはできません。出演者の承諾が必要となるからです。昔は著作権について深く意識していなかったので,このような問題も起きると聞いています。最近は十分理解されているので,作成時に許可を取っているとも聞いています。
 私が経験したところでは,あるテレビ局で昔の災害の話で出演を依頼されたとき,昔の災害の載っている本を紹介したところ,放映時に私がその本を見ているところを撮影できないかとお願いされたことがあります。本そのものの内容を放送すると著作権法に引っかかるが,私が見ているところを(内容込みで)映すのならセーフになると思ったと言うことです(最終的には著作権者からの了解が得られということでした)。放送局ではここまで気にしているのです。
 先にも書きましたが,私は著作権の専門家ではないですし,十分理解しているとも言えません。ただ,一方では情報発信側として,最低限は理解しておく必要があると思っています(最低限が世の中の常識と一致しているといいんですが)。
 著作権については,本も多く出版されていますが,専門的な記述も多く,よく理解できない所もあります。著作権の入り口として分かり易いのはみんなのための著作権教室です。専門用語ではなく,分かり易い用語で説明がしてあります。また,私がよく参考にしたのは,宮田昇さんの学術論文のための著作権Q&Aです。
 ここでは,私の理解している範囲で,研究者として必要なことをまとめました。なお,文献を引用することも参考にしてください。

著作権譲渡
 少し前のことですが,(財)地震予知総合研究振興会から,ここで発行している地震ジャーナルを公開したいということで,昔の私の記事に対する許可を求められたことがあります。これも,昔は著作権に対しての配慮がなかったためで,地震予知総合研究振興会の対応も適切なものと考えます。
 最近では,このようなことがないようにということでしょうが,発表時に著作権譲渡の書類が来たり,投稿規定に示されることが普通になってきました。でも,うかつにサインしてはいけません。
 あるとき,ある学会から著作権上との書類が来ましたが,そこには,「著作権を譲渡します」と言うことしか書いてありませんでした。これはまずいです。自分の書いた文章やアイデアがその学会のものとなってしまい,自分で自由には使えなくなります。そこで,著者全員で相談して,条件付きで著作権譲渡をすることにしました。すなわち,著作権譲渡書に「下記の論文の著作権を##学会へ譲渡いたします。ただし裏面記載の条件があります。」という文章を入れ,さらに,裏面記載の条件として以下を挙げました。
著作権譲渡における条件
1.著作者自身による著作権利用
以下の場合, 著作者は, 自身の論文等の全部または一部を,出典を明記することにより, ##学会に通知することなく公衆送信, 複製, 翻案するなどの形で利用する権利を保持する.
  (1) 著作者自身が管理するホームページ
  (2) 著作者自身が講演者として行う講義・講演での資料
  (3) 著作者自身が著者として公刊する著作物の内部
  (4) その他, これらと同等の著作者自身による学問的活動
本項各号以外の場合でも, 著作者が著作者自身の活動としての用途のために複製, 翻案するなどの形で利用する場合は, 別途協議によるものとする.但し, この場合でも,利用する複製物あるいは著作物中に出典を明記するものとする.
2.出典を明記しない転載の禁止
 ##学会または第三者が出典を明記することなく著作物の一部または全部を転載することを禁止する.
3.著作者が保有する著作者人格権の不行使
著作者は,以下の各号に該当する場合,##学会が許諾する者に対して,日本国著作権法第18条[公表権],第19条[氏名表示権]及び第20条[同一性保持権]を行使しない.
  (1) 出版物の配布および保存の方法の変更に伴う改変
  (2) 概要または一部分のみを抽出して利用することに伴う改変
 ただし,##学会は,本項各号の改変について,本著作者の名誉を損なうことのないよう十分に留意するものとする.
以上

 ちなみに,この文は,京都大学防災研究所の後藤浩之先生が作ったものです。1.は自分の書いた部分は自分が自由に使える,2.は使うときには出典を明示してくださいと言うこと,3.は##学会がそれを他に利用する際の条件です。これだけの権利が保障されていれば十分と思いますので,参考にしてください。
 私の経験ですが,あるとき,「Earthquake-soil interaction」1)という本を見ていたら,私の名前のある部分がありました。内容はある国際会議に出した論文2)がそのまま本の一部になって出版されているのです。事前に了解は求められていませんでした。上記の3.による出版社の権利と思います。出版社からは本を寄贈されましたし,多くの論文の中から本に選ばれたと言うことは名誉とは思うのですが,それでも釈然としませんでした。
 最近では,学会でも著作権に関する理解が深まってきたようで,この程度のことは投稿規定に書いてあるのが一般的になってきました。しかし,投稿規定はきちんと確認しておくのが大事と思います。

地盤に関係した著作権
 著作権は,創造性のあるものを対象としています。例えば地盤の地層構成などは創造性があるものではないので,著作権はありません。この点は,例えば,国土地盤情報検索サイト KujiJiban東京の地盤などのサイトでも明記されています。ただし,その表現方法に関しては著作権があります。また,表現方法が一般的なものであるものにも著作権はないようです(例えば,全地連報告。ただし,複雑な所もあるようです。例えば,著作権判例データベースの例を見ても,色々な所に論点があるように思えます。
 研究者としての発表では,例えば,岩尾先生によるもの3)があります。研究者でこれだけの文章が書けるというのは尊敬に値しますが,文章はわかりにくいです。
 もう一つの問題として,例えば,土質調査会社が受注したホーリングのデータがあります。地層構成に著作権がないのなら,例えばデジタル値であれば表現に対する著作権もないので,出していただけそうですが,別の要因があります。一般に発注者は自分の土地の情報が外に出るのを嫌うので,契約時のそのような契約書を交わしているからです。つまり,著作権とは別の問題です。従って,場所の情報がわからない形であれば使うことが可能なケースもあります。実際,調査会社の論文などではそのように利用しているものもあります。
参考文献
  • 1)Syngellakis, S. ed.: Earthquake-soil interaction, WIT press, Southampton, Boston, 249pp., 2015
  • 2)Yoshida, N. (2011): Role of hysteretic damping in the earthquake response of ground, Proc., 8th World Conference on earthquake resistant engineering structures, pp. 123-133
  • 3)岩尾雄四郎:地盤データベ ースに関する問題点と今後の展望,土木学会論文集,第409号/VI-11(報告),pp. 145-150






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Updated: 31 May, 2020