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査読

 研究者をしていると,査読を依頼されることもあるし,投稿論文から査読意見が返ってくることもある。ここは,これらに関する雑談である

査読-1
査読-2
査読は戦いである
採用条件と改善のための意見
論文編集委員の役割



査読-1
 最近は減ってきたが,一時は非常に沢山の査読を依頼されたこともある。友人の中には査読は15分だよという人もいるが(たぶん,判断する時間で,報告書まで含めるととてもそれではすまないと思う),私の場合は最低で2日,一般には3日を要する。従って,非常に負担が多い依頼である。多いときは月に4編ぐらいのこともあったし,仕事に差し支えるレベルである。私の友人の中には,査読論文は参考文献も含め,手元に無いものは取り寄せても全部読むという人もいる。そうすると,その時間はもっと多いであろう。
 ネットで査読に関する事項を調べていると,例えば不採用とすれば査読に掛かる手間が減るというような事を書いたサイトもあったが,私の場合は,不採用と判断した論文が一番手間が掛かる。どこがまずいかを丁寧に書いて,同じテーマの論文を再チャレンジする際の参考にしていただきたいということ,もう一つは,仮に私が不採用と判断しても,他の査読者が採用と判断され,結果的に採用される(これまでこういう事例は多くはなかったが)時に備えて,  査読は,昔はほとんど断らなかったが,最近では断ることも多くなった。一番の原因は,査読期間で,最近は一月とか4週間というのが一般的である。これではとても終わらない。昔はもっと長かったし,そんなに催促されることもなかった。私の論文では,投稿してから搭載まで5年掛かったというのもある。何度か行き来して,査読が帰ってくるのに1年というのが何度かあったためである。最近は,論文集も多くなり,自分の論文集に投稿してもらうために投稿から搭載までの時間の早さを宣伝に使うようになり,査読期間が短くなったと思われる。
 学会も査読者を見つけるのに苦労しているようである。昔の話であるが,日本建築学会の査読依頼で,査読するのは学会員の義務であると書いた依頼書が来たことがある。査読は引き受けたが,入会要項にそんなことは書いていないとクレームを付けた。そのためか,次の依頼ではそのような脅迫的な言葉はなくなった。土木学会では,一つの論文に査読者が3人いるから,投稿するのなら,査読もしろというような内容の依頼をいただいたこともある。それなら,投稿した論文の3倍の数で査読をやめようと思った(だけ)。これらは,学会が査読者探しに苦労していることを物語っているように思える。

査読-2
 査読者がこれだけ苦労しているのに,学会の反応はかなり冷たい。上に挙げた依頼の所でもそうであるが,脅迫的な文章が届くのもそうであるが,査読結果を報告してからもそうである。一般には,形式的な査読結果を受理しましたというメールが届くだけである。本来なら,最低でも論文の採否の報告はあっても良いと思うが,ほとんど無い。
 査読料も払われることはまずない。昔は,3000円程度が払われたことがあったと思う。当然,作業量に見合うものではないが,感謝していますという気持ちはある。
 日本建築学会は例外である。最近は査読依頼が来ないので,現状はわからないが,私が査読した件に関しては,採否の連絡は来たし,査読料(500円だったか1000円だったか忘れたが)も支払われている。

査読は戦いである
 論文を投稿して,査読の結果が送られてくると,採用条件と改善のための意見が帰ってくる。以下で書いたが,採用条件は修正が必要な意見であるが,これまでの論文を投稿してきた経験からいって,すべてが正しい意見とは限らない。これには,査読者が査読の条件を知らないこともあるし,勘違いをしていることもある。
 例えば,この内容ではわかりにくいので,こういう実験(計算)を加えなさいというような意見,これは絶対にしてはいけないことになっている。このような事ができてしまうと,査読者の思うように論文の主旨を変えることも可能になるからである。このような意見は,改善のための意見になら可能かもしれないが,基本的にはしてはいけないことで,データが不足でわからないのであれば,不採用とすべきである。
 特に海外の雑誌に投稿したときに多いが,引用文献の不足を指摘するもので,この論文を入れろというような要求である。これは,おそらく,その論文は査読者の論文で,引用件数を上げるために入れたものと考える。
 これらは,返事で査読のルールを外れていると指摘すればほとんど問題が起こらない。私はそこまではしないで,友人の中には,この論文を引用すると,同レベルの論文をあと100程引用する必要があるというような返事を書く人もいる。
 これに対して,査読者が間違っているとか勘違いしているケースは問題である。これが採用条件であれば,投稿者は困ってしまうが,採用条件と言うことであれば,きかざるを得ないと思うと考えられる。これも私の経験ですが,今まで,査読意見がすべて正しかったというのか記憶にありません。採用条件でも変なものは沢山あります。このタイトルが「査読は戦いである」と書いたのはこういうときです。
 私は,これに対してはきちんと説明したコメントを付けて,さらに,「ただし,この意見に拘わらず採用条件とされるのでしたら,従います(ケースによってコメントは若干異なる。採用条件を無理強いされたときの修正の文案を示すこともある)」という文章を付けて対応している。幸い,これまで,無理強いされたことはなかった。
 ということで,投稿者は100%査読の採用条件をきく必要は無い。ただし,余り経験の無い人の場合には不安もあると考えられる。その場合には,知り合いでよく知っている人に,査読のコメントとそれが不合理だと思う理由を説明して意見を聞くとよい。査読者は査読していることは○秘であるが,投稿者が査読者の意見を公開することは禁じられていない。恥ずかしがらずに相談すべきである。

 もう一つの事例は,既発表の問題である。オリジナル論文の所で述べたが,既発表は示すべきである。ただし,口頭発表は例外で,口頭発表であるから,既発表として示すところには入らない。つまり年次大会で発表したものまで既発表として示す必要はない。所で,あるとき相談されて,年次大会三つ分を一つにまとめ,年次大会をそれぞれの内容に参考文献として示したところ,投稿論文そのものが既発表で不採用と判定されたと相談されたことがある。その論文を読んでみると,2,3,4章に既発表の年次大会が章の題目の後に引用してありました。さすがにこれはまずいと思い,年次大会は口頭発表なので,ここで引用する必要は無いという事をアドバイスしました。なお,論文集によっては関連する論文の既発表についてリストを出すことを要求されることがありますが,その場合には,リストには入れてもよいと思います。
 もう一つの問題は,誰が先に発表したかという問題です。この問題はやや微妙なところがあります。全くの雑談なので,ここの注参照。
採用条件と改善のための意見
 一般の査読論文を応募すると,採用の可否の通知があり,採用の場合には,無条件採用と条件付き採用がある。私の委員長,編集委員,査読者,投稿者としての経験からしても,無条件採用というのはまず無く,ほとんどが条件付き採用である。その場合,条件として1)採用のために必要な修正(以下,採用条件),2)改善のための意見,3)表記上の軽微な修正,の三つが示されることが多い。
 ここで,表記上の軽微な修正とは,記号の間違いやミスタイプなどで,投稿者にとっては有難い指摘である。ここでは,これ以外の二つ,すなわち,採用条件と改善のための意見について述べる
 まず,両者は根本的に違うという事である。採用条件は必ず修正が必要である(ただし,上にも述べた様に反論は可能)のに対して,改善のための意見は,査読者からのこうすればもっと論文がよくなりますよという意見ですから,修正してもしなくてもよいのです。しかし,多くの査読の返事を見ると,両者の区別無く,どちらも修正しなくてはいけないと思っている人も多くいるように思います。地盤工学ジャーナルでは,編集委員の態度について,両者は明瞭に区別するものと書いています。

論文編集委員の役割
 日本の論文集では,査読者を3人選び,その結果,○(採用)が2名以上は採用,×(不採用)が2名以上は不採用としていることが多い。しかし,これを機械的に行わないで欲しいというのがこのコラムの一つの趣旨である。
 最近,論文も増え,一方無料で手間の掛かる査読依頼は嫌われる傾向があるので,査読者のレベルが落ちているように思う。私の経験でも次の様なものがある。
  1. この論文はダメだが,この手法の限界を示しているので○
  2. この手法は##学会の設計指針に載っていないので使えない
もちろん,このような査読者に査読を依頼するのが悪いのであるが,編集委員も自分の専門的な分野ならいざ知らず,他の分野では十分に知らないこともあるし,沢山論文を書いていると言うこととよい査読をすると言うことは全く別で,その分野の著名な方に査読を依頼するが実は査読者としてはよくないということもあり得るわけで,すべてが編集委員の責任とは思えないところもある。従って,編集委員は,査読結果をよく見て,採用,不採用の判定をすべきであり,必要なら,新たな査読者を立てることも検討すべきである。
 地盤工学ジャーナルでは私が委員長をしていた際に,編集委員のメモにこれを明瞭に記述し,例えば,○が三つでも×にしてよりし,×が三つでも○にしてよいと書いておいた。もちろん,このような際には,担当者の判断だけではなく,委員長,副委員長も議論に参加し,委員長の責任で処理をするわけである。さすがに×三つを○にした事例は知らないが,○三つを×にした経験はある。
 編集委員のもう一つの重要な仕事は,査読者からの意見(採用条件,改善のための意見など)をそのまま執筆者に返さないで,編集委員として中立の立場で眺めて,分類が妥当か,執筆者に返すべきかを判断する必要がある。上記の例の二番目は,決して執筆者に返してはいけない意見である。
 また,査読は,前記のように三つの分類で執筆者に返すべきだが,査読者によっては区別をしないで返してくる人もいる。このような際には編集委員が分類して返すべきである。意見だけをそのまま執筆者返されると執筆者は判断に困ってしまう。私もそういうものを返された事があるが,仕方が無いので,自分で分類をして返事をした。
査読者の要求に対して執筆者から査読者が間違っているという指摘があったときには,編集委員はちゃんと判断をして欲しい。私の記憶でも,査読者の意見の間違いを指摘したところ,それがそのまま査読者に送られたようで,再度同じ指摘があったことがある。仕方が無いので,結構膨大な反論資料を用意し,提出したことがある。最終的には私の意見は通り,編集委員から「##に付いて理解が深まりました」という返事が来たことがある。本来は,編集委員が反論を理解し,理解できないのであれば,査読者からの意見ではなく,担当者からこの件は担当者の理解の範囲を超えている(判断できない)ので,丁寧な説明をしてくださいというような連絡があるのが理想である。

注)発表時期の問題  あるとき,学会の年次大会で発表したら,聴衆の一人からそれは彼らの発表論文のぱくりではないかという様に追求されたことがあった。実はその論文は,その前年に国際会議に投稿したもので,国際会議は1月に開催されていた。年次大会の際はよく事情がわからなかったので,その旨を返事しただけであったが,後日,共著者から,彼らは前年の年次大会で似たような発表をしていて,質問者はそのことをいったものであった。国際会議の発表は1月であるが,国際会議の締め切りはずっと早いので,私が彼らの発表を見て同じ内容を投稿したのでないことは明らかである。
 こういうとき,どちらの成果かと言うことは,問題と言えば問題である。常識的に言えば先に出版されたものである。しかし,投稿から印刷(公開)まで時間の掛かる国際会議や査読論文誌と年次大会とを同率に扱うのは問題であろう。最近の論文集では,論文受理の日が書かれるようになっている。これは非常に良いことである。年次大会の締め切りは調べればすぐにわかる。

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Updated: 31 May, 2020