シリーズ 基礎地盤のプロに訊く

コミュニケーションチームが
描き出す「新しい景色」

取締役 事業企画本部 本部長

永川 勝久

(ながかわ かつひさ)
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近年、「データドリブン」という言葉をよく耳にする。日々の業務や経営において、売上データ、マーケティングデータなど、データに基づいた判断や行動をすることを指す。より効率的で確実なビジネスパフォーマンスのために、近年あらためて注目されている考え方である。

基礎地盤コンサルタンツ事業企画本部長の永川勝久は、これからの時代の「新しい景色」を見るための旗振り役だ。新しい景色とはなにか。それは簡単に言ってしまえば、デジタルとアナログの融合だ。デジタルデータのやりとりだけでは埋められない「つなぎ」の部分を、どう有機的にネットワーク化していくか。永川は、社内に、社長をリーダーとする新たな「コミュニケーションチーム」を立ち上げた。「知的好奇心」が突き動かしてきた熟練エンジニアの新たなアクションが、社内に新しい風を起こす。


九州男児が、関西、関東、東北と日本各地を渡り歩き、その知見を広げた。

九州男児が、関西、関東、東北と日本各地を渡り歩き、その知見を広げた。

「データ化、デジタル化は、不可能なことを可能にするための重要な進歩です。ですが、それだけではなんとなくしっくりいかないなと思うことが増えてきたような気がします。最近、土木業界内で『地質リスク』という言葉が話題に上ります。計画、調査、設計、維持管理などの過程で、(その地質に関する前工程での)情報が引き継がれていないことが多々あって、それに伴うトラブルが発生しています。二度手間三度手間になる非効率性も問題ですが、なによりも、その時把握した”マイナス要因”を現場に活かせないことが問題になる。成果や武勇伝は工事史に残るけれど、失敗はなかなか記録に残らない。体系化できないアナログ情報などもそうですけど、データ化からこぼれ落ちてしまったもののなかにこそ、後世に伝えていかなければならない大事な情報があるのではないかと考えているところです」


クラウドデータによって多くの人々が、同じ情報にアクセスできる。そこにあるのは情報の平準化であり、また情報の一種強制的な最新化である。そこには地理的な特異性や情報の縦軸である歴史的経緯が足りないと、永川は言う。


「情報が最新の状態で平準化されていくとたしかに効率はよくなるわけです。しかし、それで完全な正解が導き出せるかと言うと、必ずしもそうではない。地盤や自然環境を扱うわれわれの仕事では、必ずしもデータだけでは割り切れない、地域ごとの特性や過去の失敗から学ぶ防御策なども加味する必要が出てくる。ときにはデータの振り返り、見通しなども必要になる。データを過信する小手先の仕事ではなく、地盤に関するあらゆる状況を想定しうるような『総合知』を活かしたコンサルティングこそが、これからの時代、われわれに求められてくるのではないかと思っています。さいわい基礎地盤コンサルタンツには、全国に散らばる人と技術のネットワークがあります。高度経済成長期のインフラづくりを支えた、70年にもおよぶ縦軸の情報ネットワークもある。これを活かさない手はないわけです。まずは社内のコミュニケーションを促し、会社に眠る技術や力で、社会に少しでも貢献していけたらと思っています」

名勝・太宰府天満宮の近く、福岡県筑紫野市出身の永川は、熊本大学大学院で地学を学んだ。小さい頃から、星や宇宙、鉱石や植物、人や言葉など、目に触れるまま耳にするまま、縦横無尽な知的好奇心に突き動かされるように行動した少年時代だった。1993年に基礎地盤コンサルタンツに入社、後に技術士資格を取得、九州支社(福岡)を皮切りに、大分事務所、関西支社、関東支社、本社、東北支社などで勤務し、ジオ・エンジニアとしての知見を広げた。

「地球のマグマの話は小さい頃の図鑑の影響、そして、宇宙への憧れは『宇宙戦艦ヤマト』(1974年〜)です(笑) ほんとうは研究者になりたかったんですけど、これ以上親の脛をかじるのも申し訳なくて、就職の道を選びました。バブルの気分がまだ少し残る頃だったので、当時勢いのあった情報通信など、まったく違う分野への浮気心も起きましたが、やっぱり思い直し、初志貫徹で(研究してきたことが活かせる)基礎地盤に入りました。入社間もない頃は、ボーリング調査の取りまとめが主体でした。現場作業の方たちとの寝泊まりで、現場での知恵や地元住民の方々との接し方などを徹底的に学ばせていただきました。昭和の職人気質が残るまだまだ荒っぽい時代でしたので、辛かったことも多かったですが(笑)、そこで体験したコミュニケーションのかたちが、いまの私の原点になっていると思います。エンジニアとしての知識に関してもそう。大分事務所という小さなセクションに、たったひとりの技術者のような状態で長く配置されていたこともあったのですが、課題解決をしていくうえで、あの頃はインターネットもありませんから、本を読んでいくしかない。でも、それだけだとやはり行き詰まってしまう。そうだ、自分より詳しい人に聞けばいい。先輩や友人、ときには恩師にまで電話をかけまくる日々でした。やっぱり自分ひとりで仕事をするというのは、あまり正しいやり方じゃない。知識の積み重ねやネットワークがあって初めて、それが正しい方向に向かっていく。最初は遠回りで時間のかかることだと思っていたけれど、結局は最短で問題解決ができてるんじゃないか、そう思うようになりました」


酒を酌み交わしながら未来を議論することが好きな永川氏。ジョギングで体型をキープする一面も覗かせる。

酒を酌み交わしながら未来を議論することが好きな永川氏。ジョギングで体型をキープする一面も覗かせる。


その後、永川は海外業務も経験する。「ナチュラルアナログ」の研究のため、フィリピンに滞在した。これには若干の説明を要する。「ナチュラル(自然)アナログ(類似性)」とは、放射性廃棄物などを地層処分する際、数万年先を正確に予測することは不可能なため、「類似した自然現象」(ウラン鉱石中の核分裂反応など)の研究により、長期の時間スケールで進行する現象の理解や、実験に基づいて作成した進行モデルの適用を目指すものだ。

「要するに、人間はちっぽけな存在なので、地質学的な長さで進行する自然現象に対しては、過去からある”似た感じの現象”から類推することしかできないのです。少し難しいことを言いますが、いま世界的に、人々は『人新世(じんしんせい)』という新しい時代を迎えているとされています。人類の活動、つまりわれわれが生きてきた証が地質学的証拠として地盤に刻まれはじめている。地球温暖化による気候変動や生物多様性の損失、核実験の爪痕などがその一部です。いま国を上げて地球環境を守る活動に取り組んでいます。地球物理学や地盤工学的な研究はもちろん重要だけど、それだけではどうも解決に繋がらない。デジタル、アナログを問わない。また、古いこと新しいこと、ましてや地域や年齢や性別を問わない。そうしたあらゆる知恵を駆使した総合的な見地からの「生き方の哲学」のようなものが、いまあらためて問われているのではないかと感じています。歴史のなかに未来がある。『ナチュラルアナログ』の研究でそのことを学べたような気がします。少々、大げさになりましたが、日常の業務に活かせることがまだまだある。われわれの会社に眠っている古くからのアナログの知識や技術がまだまだ社会の力になる。日々そんなことを感じながら、今回発足させた『コミュニケーションチーム』に大きな期待を寄せています」


基礎地盤コンサルタンツは、地盤調査・解析のスペシャリスト集団であり、永川自身も貴重な経験値を持つジオ・エンジニアだ。そのことをあらためて指摘した。


熊本・甲佐町にある「肥後変成帯」(地質百選)の認定証を町長(当時)に渡す若き日の永川氏(「広報 こうさ 2009年10月」より)

熊本・甲佐町にある「肥後変成帯」(地質百選)の認定証を町長(当時)に渡す若き日の永川氏(「広報 こうさ 2009年10月」より)

「そうですね。われわれは、地盤を入口にした土地や地域に対する総合知を持っているということになります。それを活かして、できることはいっぱいあります。たとえば、防災関連の啓蒙活動であったり、未来を背負う子どもたちへの地学教室であったり。個々の孤立したスペシャリストだけでは拾えない社会のニーズを、社内のコミュニケーション網を築くことによって可視化し、実際のアクションにつなげていく。地盤に関するワークショップも、過去にもいろいろと開催させていただきました。地質調査業協会などが後押しをして積み重ねてきた日本の地質に関係する典型的な100箇所を選抜する『地質百選』の運動や、それに沿うように、自然との共生や環境保全に関する課外学習の機会を持ち、また、自治体によるジオパーク(重要な地層や地形などの地質遺産を含む自然公園)活動への積極的なサポートなどを行い、観光資源化などの新たな地域振興へとつなげていく。そんな活動で少しでも社会の役に立っていくことができれば、これからの企業の新しい景色が描けるのではないのかなと、ぼんやりとですが思っています」

いま、地学の観点から地域を考えてみる、そんな『ブラタモリ』(NHK)的な発想もずいぶんと浸透してきましたね。「ジオ◯◯」のような言葉もよく耳にします。


「そうですね。まったくの余談ですが、タモリさんは私の高校(福岡県立筑紫丘高校)の大先輩なんです。われわれはタモリさんのように人を楽しませることはできませんが、地盤のプロとしてそれぞれの地域の方たちのお役に立てるのかもしれない。防災に関すること、また災害発生時の的確な情報提示や避難時の(液状化や地すべりなどに関する)知見など。地盤の仕事をやっているなかで、職人さんや自治体の方、地主さんなど、多くの人たちと関わりを持ってきました。でも、ほんとうはいちばん主役にしなければいけないのは、地域で生活する方々なんです。正直、大学の研究室から現場へ出た時に感じたのは、数値だけでは解決できない『現場の壁』でした。人付き合い、人情、信頼。どんな言葉が適切なのかもわかりませんでしたが、そのときは絶望的にとまどい、多くの人に迷惑をかけながらも地域の方々から、いろいろなことを教わりました。好きが高じた地質屋であることに変わりはないけれど、なんらかのかたちで少しでもその時の恩返しができたらと、そんな気持ちでいます」

取材者からみて、永川は徹底的な理系人間である。物事を論理的に把握しようとし、社内のコミュニケーションネットに関するイメージも、まるで人体における神経網のように緻密に組み立てて見せる。宇宙戦艦ヤマトから始まっているいわば「古き世代」ではあるが、そのことはあまり感じさせない。さらに彼は、勘やコツを否定するつもりはないと強調し、過去にこそ未来があると少なからずの自信を見せる。発足したばかりの社内のコミュニケーションチームは、永川のアクションをきっかけにどんな「新しい景色」を描き出すのか。


最後に、これからの新人に対する思いを聞いた。

「話して欲しいんですよね」

永川は、さびしそうにつぶやく。

「いっしょに仕事をやってる仲間だと思っているんだけど、いきなり辞めちゃうってことがある。年配の人間や上司には話しにくいというのはじゅうぶんにわかるのだけど、もう少しなんとかならなかったのかなと思います。悩みがあるとき、しょせん会社は会社だからって考え方もあるのかもしれないけど、やっぱり会社、カンパニーは仲間って意味だから。古いですかね。話し合いですべてが(その人にとって)いい方向に解決するのかどうかはわからない。でも、やっぱりコミュニケーションは、仕事の原点なんだと思います。なかなか誘いにくいご時世ですけど、それこそ仕事を離れてたまにはおいしい酒をいっしょに飲むのもいい。地酒といっしょに水や地盤の話をしながら飲んだっていい。地質屋には地質屋のやり方があるのかもしれない。でも、おたがいが同じ方向を向いていれば、自然とうまくいくんじゃないのかなと、けっこう楽観的に考えちゃうんですよね」

趣味はその土地のお酒と方言を味わうことですかね。そういうと、永川は照れくさそうに笑った。(敬称略)