【コラム】地盤リスクの低減方法

コラム

 「地盤リスク」という言葉を最近よく目にする。リスクの定義は一般には,「何らかの原因によって,損害を被る可能性」とすると,地盤リスクとは,「地盤が有する性質(不均質など)によって,何らかの損害(事業リスク)をもたらす可能性」と定義されよう。ただし,リスクの要因としては「地盤の性質」だけでなく,地盤関係の設計式(解析式)自体,調査サイドと設計サイドのギャップ,などにも多くあると思われるので,その辺について述べてみたい。

 地盤上に物を造る場合,地盤を適切に評価し(調査サイド),地盤(基礎)が変形・破壊しないように設計を行う(設計サイド)必要がある。設計は「ある設計式」を利用して行われるが,工学における理論や式というのは,例えばある実際の現象をモデル化(理論や式が組めるモデル)し,それから理論や式を構築していくものである。ただし,ここで注意すべきことは,この理論や式はあくまでも,そのモデルに対する理論・式であって,実際の現象をすべて現している訳ではない。故に工学における理論・式には適用限界があること,実際の現象とモデルの相違を理解することが原則であり,それを理解しないで用いていると大きなリスク要因と成り得ることになる。

 既に述べたように,地盤上に物を作る場合,地盤調査から設計という流れで実施され,「地盤を評価する」作業は一般には調査サイドが行い,基礎の設計は設計サイドが行う。本来,調査と設計は共同で実施すべきはずであるが,現実は両者の間には少々(多々?)のギャップが出来ているように感じる。所謂,調査は調査,設計は設計,単独で動いている,と言うことであり,場合によっては大きな失敗につながる。これらを防ぐには,地盤サイドが設計を勉強する,また設計サイドが地盤調査を勉強する,と良いが現実的には難しい。そのため解決策としては,まずは『良質な』調査サイドと設計サイドが融合(よく協議し合う)していくことが一番必要であろう。それが地盤リスク(設計リスク?)の低減に対して,最も手っ取り早くかつ効果的な方法と考える。弊社には良質な調査・設計組織があるので,十分に可能と思われるのであるが…。

 なお,忘れてならないのは,「土」は「粒状体」と「水」の集合体ということである。粒状体はせん断に抵抗できるが,水は抵抗できない。また粒状体単独では流れることはないが,水は高低差があればすぐに流れ出す。この時,水の性質が強くなれば,土も水と一緒に簡単に流れ出し地盤は破壊することになる。故に水をいかに制御するかが土を制御することにつながるので,「水(過剰間隙水圧も含めて)」を制した物が「土」を制する,ということを忘れないことが大事であろう。これを認識していたら,どこかのトンネル事故も防げたかもしれない。
(九州支社 田上裕)

関連リンク

地盤リスクの低減へ 建設通信新聞「西風抄」掲載