連載・CIMの道筋/設計者の挑戦 新聞掲載記事より

プレスリリース

連載・CIMの道筋/設計者の挑戦(9) | 建設通信新聞2019年7月31日[3面] より

【基礎地盤コンサルタンツ/地質リスクを可視化する/海外の実績生かし切り開く】



 「既に経験値は海外で積んでいる」と、基礎地盤コンサルタンツの尾高潤一郎技術本部i-con技術戦略室室長は手応えを口にする。国土交通省では2019年度からBIM/CIMの対象に調査・測量業務を位置付け、地形地質モデルの提供を求めることを決めた。同社にとっては12年から16年までの5年間をかけてシンガポールで取り組んだ地質調査業務の成果が生かせると判断している。


シンガポールでの3次元地質モデル


 シンガポール建築・建設庁(BCA)は地下空間の活用を国家戦略として位置付けており、同社は国土の4割に当たる地質の全容を把握するための調査・モデリング業務を受託した。調査を3次元モデル化するだけではなく、地質リスクの可視化にも取り組み、岩盤種類、RMR(頑強区分)クラス、断層・褶曲(しゅうきょく)などを点数化し、地質のハザード指数として提示した。リスクを3次元モデル上に表示する画期的な手法として、英国政府からお墨付きも得た。
 仲井勇夫執行役員東北支社長は「これは地質リスクを定量化し評価しているものであり、いままで培った細かいハザードに対する知識をCIMと融合して、ハザード表を示した。日本は地盤が複雑であるだけに、シンガポールで得たノウハウを根拠としながら積極的に対応していく」と力を込める。


 同社は16年に各支社から若手を中心に総勢15人ほどの3次元地質モデル作成ワーキンググループを発足させ、地形地質の3次元化について議論を重ねてきた。3次元化は地質調査の結果をもとに広げていくため、調査場所をつなぐ範囲には不確定要素が残る。何の注釈もなしに示したデータはリスクになりかねない。尾高氏は「社内ではこれから地盤モデル構築の第2フェーズに入る」と強調する。
 18年9月には、i-con技術戦略室を発足させ、BIM/CIMとともにi-Constructionにも関連する技術的な課題解決への対応を強化した。その下には設計部門に加えCIM、地質リスク、リモートセンシング、AI(人工知能)、GIS(地理情報システム)の専門技術者をメンバーに入れた10人体制の連絡組織も設けた。月に1回のペースで議論しながら、今後の重点テーマを導く。「さまざまな変化に対応する組織となり、次の時代を見据えて技術の可能性を突き詰める」と仲井氏は説明する。

 i-Conへの対応についても、3次元解析、3次元物理探査、さらには衛星SAR解析の技術を保有していることから、
AIやドローン画像解析など先進的な技術と組み合わせながら新たなサービスの創出も推し進める。「大切なのはリスクコミュニケーションであり、その手段としてもBIM/CIMが重要になってくる」と、尾高氏は焦点を絞り込む。
 特に地形地質モデルでは、どこにリスクが存在し、分かりやすい形で発注者やプロジェクト関係者に指し示す必要がある。仲井氏も「理解しにくい解析結果をそのまま提示するのでなく、数値化するなど分かりやすい形に置き換える工夫が求められる」と、的確に後工程に情報を共有するリスクコミュニケーションの必要性を強く訴える。